かんりにんさんの

 入院生活回想録*後編*


○9月16日(土)手術のやり直〜し
 今日の手術は、10時からと決まっていた。 足の付け根の動脈から、カテーテルを突っ込むということで、昨晩のうちに、下半身周りのムダ毛は綺麗さっぱり剃られていた。
 30分前くらいになると、今度は尿管から膀胱に達するチューブを付けられ(実は今回の入院で一番不快だったのがこれ...)て準備万端整った。
 今日は、昨日の車椅子から一ランク上がって(?)、ストレッチャーで移動することになっている。 こいつがまた狭いうえに、結構背が高く感じられて怖くもあるし、床のデコボコはもろに背中に感じるし、乗り心地悪る〜。<`ヘ´> 心なしか昨日と違って、一段と緊張感が漂っていて、カミさんは付いているものの、心ぼそ〜(@_@;)
 手術台へは、昨日自分で上がったのとは違い、イッチ、ニーの、サン、でストレッチャーから寄ってたかって抱えあげられた。 ドクターもベテラン医師が一人増えて、3人体制でやるようだ。 主に施術はこのベテラン医師が担当しているようで物々しい雰囲気。 例のピッ、ピッ、ピッの心拍音の中、作業は手順通り進んでいく様子だった。
 病室に戻ってきたのは、11時半頃。昼メシに間に合った。 ただし、付け根からの動脈の場合、ちょっとした身のこなしで、血液が噴出す恐れがあるとかで絶対安静。食事はカミさんから食べさせてもらうことに...(楽チン、楽チン(笑))
 笑っていられたのもここまでで、くくりつけられた状態を忘れるため、文庫本を取り出し何とか本に集中しようとするのだが、とにかく窮屈で寝返りも打てないから、腰が痛くって、痛くって... (先生が看護師に指示したのは3時間、って聞こえた気がしたのに)2時半になっても看護師が現れないもんで、インターホンで来てもらったよ。 「まだですかねぇ?」少しムッとした調子で聞いてみると、「4時間経たんと外せません。もう少し我慢してください」だって。(涙) それから1時間の長かったことがー。 文庫本持つ手はダルイし、腰はイタイタ、気分はイライラ... 4時間チョッキリ経過して「お待たせしましたー」と、外しに来たけど、こっちはものを言う気にもなりゃーせん。 患者が苦しんでるんじゃから、5分でも10分でも、決められた時間の前に来てくれよーと身勝手に考える僕でした。。。
 手術後、病室に戻ってからは点滴が変えられた。当然注入される注射液も変わったんだろうが、点滴の装置も変えられている。 今度は点滴にトラブルがあった時に警報音が鳴るように、電源が繋がれた。 看護師も液が順調に落ちているか定期的に観察に来るし、よりシビアな管理に変わったようだ。
 夜中に、看護師が懐中電灯を手に、点滴を照らして異常がないか見て回る。 入院してから眠りが浅くなっているので、看護師が来たのが分かる。黙ったまま指でVサインを作ってみせた。看護師はこちらが寝ていると思っていたので、ビックリした様子だったが、さすがは百戦錬磨の看護師業、すぐに懐中電灯を別の手に持ち替えて、Vサインを返してきた。同室の患者は就寝中だったので、二人とも無言で交わした挨拶だった。 今考えると何と微笑ましい光景だろう?...(笑)

○9月17日(日)経過観察の日
 昨日手術前に、「明日(つまり今日)は経過観察のために、退院はまだ無理だけど、明後日は退院していいですよ」と言われていた。 でも、TVの天気予報では台風接近のニュースが... 山口県には月曜日が最接近だということで、台風の最中に帰るのも難儀だし、こんなことでもない限り取れない休暇でもあるし、「退院は火曜日にさせて下さい」と、先生には頼んでおいた。
 今日と明日、ゆっくり休むぞ〜 根が無精者なのか、こういうダラダラした生活って大好きっちゃ。(笑)
 例によって、CDデッキにイヤホン付けて音楽聴いたり、文庫本読んでは犯人を推理、しているあいだにも風はだんだん強くなる一方。一昨日の天気予報よりも、半日から一日弱早くなっているようだ。 ビュービュー風の音は鳴るし、7階建ての病棟が揺れるように感じるのは、気のせい?
 暗くなる頃には、台風はますます激しさを増して、ついに夜8時過ぎには停電。すぐに病院の自家発電に切り替わり、廊下だけは明かりが保たれた。そうこうしているうちに、今度は自分が使っている点滴装置が、けたたましく警報を鳴らし始めた。(あっ、オレの生命維持装置が...(笑))
 看護師が大慌てで飛んできて、延長コードをまた取りに戻って、病室に唯一ある自家発電用のコンセントに差込み、入り口上部を大きく迂回させて点滴装置に繋いでくれた。これで警報音はピタッと止まり、静寂が戻ってきて一安心、一安心。 オレの場合、点滴くらいのことで心配にも及ばなかったけど、これが本物の生命維持装置だったら大変な事になったろうね。
 一生に一度あるかないかの体験で、気分は昂ぶっているしクールダウンのため、廊下の暗い照明の中で、もう少し本を読んでから寝ることに... 消灯時間を1時間も過ぎた10時頃になって、まだ眠くはなかったけどしかたなくベットにもぐり込んだ。

○9月18日(月)敬老の日=祝日
 今日は朝から暇を満喫中で〜す。(笑)
 人騒がせな台風も通り過ぎ、余波の強風が残っている程度。
 本を読むのもボチボチ飽きてきた頃。 午後から無性に風呂に入りたくなった。ここの病院は、月・水・金曜が入浴日なんだが、今日(月曜)は祝日で風呂は休みとの事。 考えてみると、入院が木曜、風呂のある金曜は手術。土・日は風呂がなく、通算5日風呂に入ってない。 ナースステーションに交渉に...「風呂入りに家に帰ってきてもえぇ?」。看護師は、急でもあるし、先生は休みで許可が取れないしで、OKとは言わない。 たまたま通りかかった、病棟婦が「よっしゃ、着いておいで」と前を歩きはじめた。風呂は7階にあるのだが、今日はボイラーを焚いてないので駄目。話しながら、着いた先は4階。ここは介護病棟で特別に独自でシャワー室を持っているらしい。 病棟婦がさっそく看護師に話をしてくれた。(この看護師がまた見事なまでに可愛い娘。エヘヘ・・・)顔に見とれて会話はろくに聞こえてなかったが、「...ダメかも...」と聞こえたような... 先の病棟婦の先導でシャワー室に行き湯を出してみたけど、『ヌル〜ゥ』。温度が上がらず、体にかける気には到底なれない。 しかたなく、可愛い看護師と親分肌の病棟婦に免じて(笑)、風呂は諦めてやることに...(笑)
 夕飯が済んでふと思った、『明日はシャバに出るんだなー。社会復帰に向けて体を作っちょかんにゃーいけん』。 それからベットを抜け出し、向かった先が階段。 5階から1階へ降り、フロアーをウロついてから、また登る。 待てよ、さすがに心臓の手術をしたばかり、先生からは特に運動についての注意事項を聞いてなかっだけに、体に負担をかけないように、恐る恐るゆっくりと、手すりを持って体を引っ張りあげるようにして登っていく。 これを都合5〜6回往復し、手と足は久しぶりの運動でヨレヨレ状態。で、ひざが笑う。(退院してしばらくは、カテーテルを刺した手首の辺りがひどく痛くって、なして痛いんじゃろう?よくよく考えて、これが階段登りをした時の後遺症だと思い当たった時には笑ったね。でも、刺し傷と無理をした筋肉痛との相乗効果で、2ヶ月くらい痛くて悩まされたよ。)
 ともかくも明日には退院、いよいよ今日が病院最後の夜だ。

○9月19日(火)いよいよ退院の日=祝
 病院の洗面所から、川沿いのいつも通勤に使ってる道路が見える。入院してからというもの、毎朝洗面所の窓から通勤途中の車の流れを見ながら、歯磨きするのが日課だった。ちょうど自分が通勤していた時間帯と重なって、いつもならオレもあの道を走っているのに、今はこちら側に居ることが何とも不思議な感じだった。 明日からはあちら側の流れの中を、遅刻ギリギリに必死になって駆けているんだろうな、と思うと、嬉しいような悲しいような...
 カミさんが迎えに来たのがお昼前。そそくさと会計を済ませて、帰路に...
 久しぶりの家は妙に懐かしい。 病院食に飽きていたので、帰ってからはインスタントラーメンがやけに食べたくて、自分で作って食べた。 この味〜、庶民の味、病院食にはない塩辛さが美味かった。 食い終わると、すぐに爆睡。余程病院では熟睡できなかったことがわかる。 目覚めてからは、待望の風呂。 垢はずいぶん浮いてしまったが、芯から気持ちがほぐれて行くのがわかった。 家はありがたかった。


≪ 後 日 談 ≫
 手首からカテーテル検査した日に、画像診断室で画像を見せられ、手術は明日仕切りなおしで行なうと説明を受け、僕は先に病室に帰された。 その後、家族だけには別の画像が見せられていた。 何とその画像には、その続きが移っていた。 カテーテルから造影剤を流すと、瞬間的に血管が白く映し出されて、1本の血管だけ一瞬遅く流れていた(ここまではオレも見たけど)が、その後カテーテルをさらに進めると、すぐにその1本の白い血流が真っ黒に消えてしまった。 と言うことは、カテーテルの先端が当っただけで、血液が止まったということになるわけで、針1本分の隙間しかなかったということかよ? 危ねー、危ねー。 手術を明日控えた患者に配慮して、家族にだけとりあえず見せたようだ。 道理で翌日の本番では、ベテラン医師が施術したはずだわ...
 これは最近嫁さんから聞いて初めて知ったこと。「惜しかったなー、もうちょっとで楽になれたのになー(笑)」とは、強がりで口にするけど、本当はゾーとする話。

 これほどの症状で、治療までして、たった6日間の入院で済んでしまう、現在医療は本当に有り難い。 おかげで、読みかけの推理小説は犯人が挙がらず仕舞いで、捜査会議は家に持ち越されてしまった。(笑) でもこの短い間に、老いや、生や、死や、そして健康などについて色々考えさせられて、実に貴重な経験だった。
 皆さんも健康には充分お気をつけあそばせ...。
 長々と書いてしまいましたが、参考にならないまでも、笑い話として読み飛ばしていただけたら幸いです。

2007.01.25

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